2013年10月30日水曜日

糖尿病の治療⑧(薬物療法⑤)

今回は、インスリン抵抗性改善薬についてお話していきたいと思います。


インスリン抵抗性改善薬としては、

ビグアナイド剤 (BG薬)チアゾリジン系誘導体(TZD薬)が知られています。

まずは、ビグアナイド剤(BG薬)についてお話していきますね~。


<ビグアナイド剤(BG薬)> 


一般名
商品名
血中半減期
hr
作用時間
hr
一日使用量
mg
メトホルミン塩酸塩
メルビン®
1.54.7
614
250750
ブホルミン塩酸塩
ジベトス®
3
614
50150


詳細な作用機序は不明ですが、肝臓に作用して糖新生を抑え、

筋肉での糖の取り込みを促進、

さらに腸管でのブドウ糖吸収を抑制すると考えられています。

分子標的は、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPPK)と考えられています。

インスリン抵抗性改善薬であるので、体重は不変から減少傾向となり、

食事療法の妨げになりません。

かつて、副作用である乳酸アシドーシス

(乳酸ピルビン酸が蓄積しやすくなるため)に対する懸念から、

あまり用いられることはありませんでした。

しかし、実際は乳酸アシドーシスの頻度は低いことが

英国でのUKPDSでの再評価によって判明しました。

乳酸アシドーシスを起こしやすい病態、

すなわち、肝障害、腎障害、心障害の既往がある患者には

使用をさけられています。

塩酸メトホルミンが主流です。

塩酸ブホルミンは、塩酸メトホルミンに比べて薬効が低く、

乳酸アシドーシスを起こしやすいと言われています。

2008年現在、インスリン抵抗性のある患者に広く使われるようになり、

TZDとの合剤も海外では販売されています。

その他の問題点は、軽度の胃腸障害ですが、

これは一時的なもので少量から開始し、ゆっくりと漸増すれば軽減できるようです。

発熱時、下痢など脱水のおそれがあるときは休薬し、

ヨード造影剤使用の際は、2日前から投与を中止する必要があります。


次回もインスリン抵抗性改善薬の続きを解説していきたいと思います。


2013年10月29日火曜日

糖尿病の治療⑦(薬物療法④)

今回は、ブドウ糖吸収阻害薬についてお話していきたいと思います。


ブドウ糖吸収阻害薬であるアルファ・グルコシダーゼ阻害薬 (αGI薬) は、

食物性糖質の1000倍も親和性の強い糖質類似物質です。

糖質が吸収されるためには、澱粉のような多糖類から消化酵素の作用を得て、

二糖類(麦芽糖や蔗糖)、単糖類(ブドウ糖や果糖)に分解される必要があります。

その酵素、α-グルコシダーゼを阻害し、消化吸収を緩徐にすることで、

血糖の上昇をおさえるので、食後過血糖改善薬とも言われています。


一般名
商品名
血中半減期
hr
作用時間
hr
一日使用量
mg
アカルボース
グルコバイ®
23
150300
ボグリボース
ベイスン®
23
0.60.9
ミグリトール
セイブル®
13
150225


これらの薬物は血糖値の食後のピークを減少させ、

食事とともに摂取すると有効であるが、

食事以外の高血糖の治療には有効ではありません。

鼓腸、膨満感、腹部不快感、下痢などの副作用がよく報告されています。

これらの原因は、消化されずに腸管にのこった糖類が醗酵し、

発生するガスによるものです。

αGIの継続的な使用によって、これらの副作用は軽減していく傾向があります。

しかし、炎症性腸疾患の患者では禁忌になります。

腸閉塞様症状に至る場合もあり、

糖尿病性神経障害で消化管蠕動障害がある場合は留意しなければなりません。

体質的に肝障害を来す例があるので、

肝トランスアミナーゼの定期的な観察を行う必要があります。

肝障害は薬物の中止とともに可逆的に改善し、αGIに体重増加作用はないため、

食事療法の妨げになりません。

少量から開始し、体を慣らしていくことで、

消化器症状によるQOL低下を防止できます。

αGI薬の使用中に低血糖が発現したときは、

澱粉や蔗糖では血糖上昇に時間が掛かるので、

ブドウ糖や清涼飲料水に砂糖の代用に使われているブドウ糖果糖液糖

低血糖の処置に用います。


 次回は、インスリン抵抗性改善薬について解説します。



2013年10月23日水曜日

糖尿病の治療⑥(薬物療法③)

今回は、速効型インスリン分泌促進薬

フェニルアラニン誘導体(グリニド系)についてお話していきたいと思います。


主だった薬物は下記の表の通りです。


一般名
商品名
血中半減期
hr
作用時間
hr
一日使用量
mg
ナテグリニド
ファスティック®
スターシス®
0.8
3
270360
ミチグリニドカルシウム水和物
グルファスト®
1.2
3
3060
レパグリニド
シュアポスト®
1.0
58
0.753.0


フェニルアラニン誘導体 (グリニド系) は、SU構造は持たないものの、

SU薬と同様に膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体(SUR1)に作用し、

インスリン分泌を促進させる作用機序を持ちます。


食後は吸収が悪くなるので食直前に内服します。

5~15分で薬効を来たし数時間で作用消失します。

この早く効いて、早く効果がなくなるという点がSU薬と大きく異なるところです。

食後血糖降下薬ともいわれ、SU薬がインスリン基礎分泌の促進

グリニド系がインスリン追加分泌の促進と考えられています。

インスリン療法の超速効型インスリンと中間型インスリンの対応に似ていますが、

SU薬とグリニド系の併用は保険診療上認められていません。


なお、ナテグリニドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、

糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、

遷延性の低血糖を起こしやすい性質を持っています。


次回は、ブドウ糖吸収阻害薬について解説していきたいと思います。


2013年10月21日月曜日

糖尿病の治療⑤(薬物療法②)

今回は、インスリン分泌促進薬であるスルホニルウレア剤 (SU薬)

その関連薬についてお話していきたいと思います。


抗生物質の開発中、副作用の低血糖が起きて、薬効が発見され、

1950年代から使用されています。

開発された順に第一世代、第二世代、第三世代と分類され、

第一世代にはトルブタミドなど薬理学的には重要な薬物も含まれていますが、

近年新規に処方される薬は殆ど第二世代と第三世代なのでそれらを表にまとめました。


一般名
商品名
血中半減期
hr
作用時間
hr
一日使用量
mg
薬効(参考)
グリベンクラミド
オイグルコン®
ダオニール®
2.7
1224
1.257.5
強い
グリクラシド
グリミクロン®
612
624
40120
弱い
グリメピリド
アマリール®
1.5
612
16
インスリン抵抗性改善作用あり


作用機序としては、膵臓のランゲルハンス島β細胞の

SU受容体のSUR1サブユニットに結合し、

ATP依存性Kチャネルを抑制することによって、インスリン分泌を促進させます。

SUは経口投与可能であり、肝臓で代謝されます。

主な副作用は、インスリン過剰分泌による低血糖になります。

従って、交感神経機能が障害されている患者、意識障害がある患者、

低血糖を認識できない高齢者、

低血糖に対して適切に対応できない患者は慎重投与する必要があります。

また、グリベンクラミド及びグリメピリドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、

糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。

従って、腎機能低下が認められた場合、

代謝物の活性が低いグリクラシドミチグリニドカルシウム水和物

超持続型以外のインスリンの自己注射への変更を考慮していく必要があります。

SU薬は基本的にはインスリン基礎分泌を促進する薬であるため

食前に低血糖を起こしやすく、

インスリン追加分泌を促進しないため

食後高血糖のコントロールが困難になりやすい傾向があります。

このためHbA1cといった平均値のみで効果判定を行うと

コントロール良好であったにも関わらず心筋梗塞といった

大血管障害が起こる可能性があります。

インスリン分泌を高めることは同化反応を亢進させ、

体重増加を起こしインスリン抵抗性を悪化させることもあります。

これも空腹時低血糖により過食となり食事療法が乱れた場合との

区別が難しいとされています。

第三世代のアマリール®は従来のSU薬が持つインスリン分泌作用のほか

インスリン抵抗性改善作用があると考えられており、

副作用による体重増加が少ない。

そのため、空腹時低血糖による食事療法の乱れなども発見しやすく

好まれる傾向があります。


次回は、速効型インスリン分泌促進薬

フェニルアラニン誘導体(グリニド系)について解説します。


2013年10月19日土曜日

糖尿病の治療④(薬物療法①)

今回は、糖尿病治療における薬物療法についてお話していきます。


糖尿病治療で用いられる経口血糖降下薬(OHA: oral hypoglycemic agent)は、

2型糖尿病において血糖値を正常化させることで

慢性合併症のリスクを軽減させる目的にて処方される薬物の総称です。


1994年までは米国でも使用できた薬物はインスリン分泌促進薬のみであったものの、

2008年現在、日本では

① インスリン分泌促進薬

② 速効型インスリン分泌促進薬

③ ブドウ糖吸収阻害薬

④ インスリン抵抗性改善薬

という4種類の薬物が入手可能になりました。

インスリン分泌促進薬としてはスルホニルウレア剤 (SU薬)

速効型インスリン分泌促進薬としてはフェニルアラニン誘導体

ブドウ糖吸収阻害薬としてはαグルコシダーゼ阻害剤 (αGI薬)

インスリン抵抗性改善薬としてはビグアナイド剤 (BG薬)

チアゾリジン系誘導体(TZD薬)が知られています。

また最近、ペプチジルペプチダーゼ4 (DPP4) 阻害剤という

新しいジャンルの治療薬が登場しています。


日本では2009年10月にαGI薬のひとつ、ベイスン®が、

糖尿病発症予防の保険適応を取得しています。


次回から、経口血糖降下薬のそれぞれについて解説していきたいと思います。



2013年10月15日火曜日

糖尿病の治療③(運動療法)

今回は、糖尿病治療における運動療法についてお話していきます。


運動療法では、医師の指導に従って、

自分に適した運動メニューを作り実行することが重要です。

いきなり激しい運動をするのは避け、徐々に運動を習慣づけるようにしましょう。


運動療法には以下のような効果があります。

運動の急性効果として、ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され血糖が低下します。

運動の慢性効果として、筋への糖取り込み率を高め、インスリン抵抗性が改善します。

エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果があります。

加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗鬆症の予防に有効です。

高血圧や脂質異常症の改善にも有効です。


有酸素運動レジスタンス(抵抗)運動がインスリン抵抗性の改善に有効とされています。

前者としてはジョギング水泳、後者としては水中歩行が挙げられます。

治療効果が見込める運動量としては、歩行として1回15分以上を一日二回

1週間に3日以上が望ましいとされています。

消費エネルギーとしては200Kcal程度であり、運動による減量はほとんど期待できません。

減量は食事療法によって行い、

運動療法はあくまでもインスリン抵抗性を改善させる目的で行うことに注意しましょう。

即ち、糖尿病治療中で運動をした分食事を増やすというのは、全く治療になっていません。


糖尿病における運動療法で気をつけるべき点としては低血糖発作であります。

特にSU薬を用いていると空腹時低血糖を起こしやすいので、

食前の運動を避けるといった工夫が必要な場合もあります。

また、糖尿病慢性期合併症が生じてしまったら

運動療法は行わない方が良いと言われています。

網膜症があれば、低血糖をおこし交感神経が反応し

高血圧になると網膜剥離を起こすこともあります。

腎症があれば、運動でタンパク尿は増えて、腎臓をさらに障害します。

神経症があれば運動は怪我のリスクとなります。

医師の指導に従い、食事療法運動療法を上手に組み合わせることが、

血糖値コントロールの第一歩になります。


次回は、薬物療法について解説していきます。



2013年10月12日土曜日

糖尿病の治療②(食事療法)


今回は、糖尿病治療における食事療法についてお話していきます。


糖尿病治療の基本はエネルギーの制限です。

2型糖尿病の場合には、肥満によるインスリン抵抗性を改善するために、

エネルギーを制限することが望ましいと考えられています。

日常の生活強度に合った食事をする必要があります。

目安としては、デスクワークの多い成人男性では、

1500kcal~1600kcal(約20単位)ということになります。


1日当たりの総エネルギー量 = 標準体重 × 生活活動強度指数

標準体重(kg) = 身長(m) × 身長(m) × 22


生活活動強度指数

  軽労働(主婦・デスクワーク):25~30kcal/kg

  中労働(製造・販売業・飲食店):30~35kcal/kg

  重労働(建築業・農業・漁業):35kcal/kg


で計算し、食事量を決める必要があります。

エネルギー量の計算は、80kcalを1単位として計算する方法が簡単で、一般的です。

また、近年エネルギー制限だけではなく糖質の制限といった

食事療法もおこなわれているようです。

食後血糖値を上昇させる唯一の栄養素が糖質であり、

超低糖質食の実践者が2型糖尿病でインスリン分泌能が低下していたにもかかわらず、

その過半数の人の空腹時血糖値や HbA1c は正常値を維持しており、

また、その他の数値も正常であり、

超低糖質食の効果と長期安全性についても確認できたとする報告があります。


次回は、運動療法について解説していきたいと思います。



2013年10月10日木曜日

糖尿病の治療①(概要)

今回から糖尿病の治療についてお話していきたいと思います。

今回は糖尿病治療の概要についてお話します。

糖尿病の治療では、糖尿病患者における血糖のコントロールが重要になってきます。

血糖コントロールの目標は、糖尿病性昏睡や低血糖を起こすことなく、

糖尿病慢性期合併症を予防することです。


ポイントは、以下の3点です。

① 糖尿病の治療は、病因、又は重症度(進行度)によって異なります。

    2型糖尿病初期において最も重要なのは、食事療法運動療法になります。

② 食事療法、運動療法でコントロールがつかない場合は、

    経口血糖降下薬インスリンといった薬物を使用します。

③ 治療の効果判定は、血糖値に準ずるパラメーターで行うこととなっています。

    治療する目的は、糖尿病の各種合併症を未然に防ぐことになります。


では、どのようにするかというと、初期糖尿病の治療で重要なのが、

食事療法運動療法になります。


高血糖ストレスによるインスリン分泌細胞の疲弊、

死滅が進行する前に開始することが望ましいとされています。

耐糖能異常の段階から生活習慣の修正や体脂肪減量を行うことが、

糖尿病の発生を防ぐために推奨されています。

体脂肪の中でも内臓脂肪の減量が重要とされ、インスリン抵抗性を解除し、

高血糖状態からインスリン分泌低下の悪循環を和らげることができます。

これは糖尿病の進行がどの段階でもいえることです。


糖尿病の診断がつく前、いわゆる境界型糖尿病の段階から行うべき治療です。

特にIGTといわれる境界型糖尿病では、

大血管障害のリスクが高いため積極的な治療が必要と考えられており、

ビグアナイド薬αグルコシダーゼ阻害剤といった経口血糖降下薬

生活習慣の改善には劣るが、効果があると言われています。


これらの内服は食事、運動の改善が不可能な患者にも一定の効果はあるものの、

糖尿病の進行を必ずしもくいとめられるわけではなく、

治療方法もガイドライン化されていないのが現状です。


次回は、食事療法について解説していきます。



2013年10月9日水曜日

糖尿病の検査

今回は、糖尿病の検査”についてお話していきたいと思います。

糖尿病の検査で主だったものといえば、

血糖値ヘモグロビンA1c(HbA1c)の2検査かと思います。


血糖値


血糖値は、食事を食べたり運動をしたりすることで容易に変動します。

朝起きてから食事を摂らず測定した空腹時血糖と、

どんな時に測ってもよい随時血糖が評価の対象になります。

常用負荷血糖(普段の食事をして測定した血糖)では、

食事開始(箸をつけて)から1時間後の

Post Prandial Glycemia 1hr(PPG1hr)がピークとなることが多いとされ、

有望視されています。


ヘモグロビンA1c(HbA1c)


過去1~2ヶ月の血糖値の平均値を表すとされています。

HbA1c 6.5%未満をコントロール良好とします。

食生活による変動が激しいことも知られており、

最近過食気味といったエピソードがあるだけで、

糖尿病の診断で偽陽性と診断されてしまうこともあります。

肝硬変、溶血の患者では低めに出ることが知られており、

その場合はグルコアルブミン(直近2週間程度の血糖値の平均値)を

代用することがあります。

HbA1cは5.8%以下で正常

6.5%以上で糖尿病と言われていますが、

OGTTに基づく診断では、

正常型境界型糖尿病型の各型とも

広範囲に分布するためoverlapすることが多く、

境界型糖尿病の診断や糖尿病の否定などには

用いることができないと言われています。

5.8%より大きい値が出たら境界型糖尿病なども疑い精査する必要があります。


次回から糖尿病の治療について解説していきます。


2013年10月8日火曜日

糖尿病の診断

今回は、糖尿病の診断についてお話していきたいと思います。


日本では、日本糖尿病学会1999年の診断基準を用いています。

空腹時の血糖または75g経口ブドウ糖負荷試験で診断します。

空腹時に126mg/dl以上の血糖があれば、

ブドウ糖負荷をしなくても糖尿病型と判定されます。



空腹時血糖(mg/dl
2時間後血糖(mg/dl
正常型
110未満
140未満
境界型
126未満
200未満
糖尿病型
126以上
200以上


通常は判定を2回繰り返し、

2回とも糖尿病型であれば糖尿病と診断します。


口渇多飲多尿などの典型症状や、

糖尿病性網膜症が存在する場合や、

HbA1cが6.5%以上である場合は、

1回だけの判定で糖尿病と診断する場合もあります。


空腹時血糖110-126mg/dlをImpaired Fasting Glucose, IFGと呼び、

75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が140-200mg/dlであるものを

耐糖能異常; ImpairedGlucose Tolerance, IGTと呼びます。

IGTはいわば糖尿病予備軍と言える病態であり、

臨床上の糖尿病との違いは合併症があるかないかという点でした。

しかし、現在、IGT患者にも神経障害心筋梗塞動脈硬化をはじめとした

合併症が出現することが知られており、

糖尿病とはっきり区別する意味は希薄になってきています。


糖尿病と診断したら、次に必要なのはどういった糖尿病であるのかを把握し、

それにも基づいた治療を考えることです。

これらを行うためには、糖尿病が発症した原因と引き金、

高血糖の程度と持続時間、合併症の程度を把握することが

重要であるとされています。


次回は、糖尿病の検査について解説していきます。


2013年10月7日月曜日

糖尿病の症状・合併症②

今回は、前回の続きで、糖尿病の症状と合併症について

お話していきたいと思います。 


<糖尿病神経障害> 

糖尿病発症から5年ほどで末梢神経に障害が起こり始めます。

手や足先のしびれ、冷感、感覚異常などの症状に加え、

痛みや熱に対する感覚が鈍くなることにより、

手足のやけどや傷、水虫などに気づきにくくなり、

重症化して壊疽(えそ)にまで至ることもあります。

その他、起立性低血圧(立ちくらみ)や発汗異常、

胃腸の不調(便秘、下痢など)、膀胱機能障害、勃起障害(ED)などの

自律神経障害による症状も現れます。


<糖尿病網膜症> 

目の網膜には毛細血管が網目状にはりめぐらされています。

血糖値が高い状態が続くと毛細血管がつまるなどして

網膜への酸素や栄養分の供給が不足などにより初期病変が発症します。

高度に進行すると、黄斑症を起こしたり、

血管新生による眼底出血や硝子体出血を起こします。

初期には自覚症状はほとんど現れませんが、

進行すると失明に至ることもあります。

早期発見および早期治療が重要であり、

糖尿病と診断された場合は同時に眼科を受診し、

その後も定期的に眼科での検査を継続することが必要です。


 <糖尿病腎症> 

腎臓の糸球体は尿の生成にかかわる重要な部位であり

毛細血管が密集しています。

血糖値が高い状態が10~15年間続くと

次第に毛細血管が変性し、

血液の濾過(ろか)機能が障害され、

糖尿病腎症を発症すると言われています。

進行すると腎不全を起こし、透析が必要になることもあります。

糖尿病腎症は、

わが国における維持透析(血液透析・腹膜透析)導入の原因疾患の第1位であり、

患者さんの数は年々増加しています。


<大血管症(動脈硬化性疾患)> 

糖尿病患者さんでは、糖尿病を発症する前から

動脈硬化が始まっていると言われています。

糖尿病発症後さらに動脈硬化が促進することにより、

心筋梗塞脳梗塞下肢の閉塞性動脈硬化症などの

大血管症を発症します。

高血圧や脂質異常症(高脂血症)、肥満、喫煙なども

動脈硬化性疾患を発症する危険性を高めるため、

糖尿病患者さんでは血糖値のコントロールはもちろん、

これらの疾患の治療および生活習慣の改善も重要です。


 <糖尿病足病変> 

血糖値が高い状態が続いて下肢の血行や神経に障害が起こると、

痛みなどに対する感覚が鈍くなります。

足に水虫や小さな傷などがある場合、

その傷に気づかずに放置することになり、

細菌感染が広がって皮膚潰瘍壊疽(えそ)が起こります。 

これらは膝から下に起こることが多く、

重症化すると足を切断しなければならないこともあります。

日頃から足をよく観察し、家族などにも見てもらい、

足を常に清潔に保つことが重要です。


<歯周病> 

歯周病は、歯周病菌が歯周組織に感染して起こる慢性的な感染症です。

血糖値が高い状態では歯周病菌の増殖を抑える力が弱くなるため、

糖尿病患者さんでは歯周病の重症化がしばしばみられます。

歯周病は心筋梗塞などの動脈硬化性疾患や感染性心内膜炎、

呼吸器疾患などの誘因にもなるため、注意が必要です。



初期症状では自覚症状が全くわからないですが、

合併症を併発するとこんなにも重篤な症状になるんですね。

とても恐ろしいです・・・。


次回は、糖尿病の診断について解説していきます。




2013年10月5日土曜日

糖尿病の症状・合併症①

今回は、糖尿病の症状と合併症についてお話していきたいと思います。


通常、糖尿病患者は自覚症状がないと考えられています。

しかし、よくよく話を聞いてみると、

下記に列挙するような手足のしびれや便秘などが実はあるようで、

特別な症状と考えていないことがあります。

血糖値がかなり高くなってくると、

口渇多飲多尿という明白な典型的症状が生じるようになります。

これらは血糖値が高いということをそのまま反映した症状なので、

治療により血糖値が低下すると、これらの症状は収まってきます。

血糖値がさらに高くなると、

重篤な糖尿病性昏睡を来たし、

意識障害腹痛などをきたすこともあります。


一方、発症初期の血糖高値のみで、

こむら返りなどの特異的な神経障害がおこることがあります。

また、発症初期に急激に血糖値が上昇した場合、

体重が減少することが多いようです。

(血液中に糖分が多い一方、脂肪細胞などは糖分が枯渇した状態になるため。)


その他の症状は、たいてい糖尿病慢性期合併症にもとづくものになります。

・ 糖尿病性網膜症を発症すると視力が低下する。

・ 糖尿病性腎症によって最終的にはむくみや乏尿、全身倦怠感など種々の症状が
  出現する。

・ 糖尿病性神経障害には2種類あって、末梢神経障害によって手足のしびれ

  などが起り、一方、自律神経障害がおこると便秘、立ちくらみ、勃起不全などの原因と

  なります。

・ 糖尿病は皮膚にも糖尿病性リポイド類壊死をはじめとする様々な合併症を

  引き起こすことがあって、それに伴う症状が出現することがあります。

これらのような糖尿病に典型的な合併症に加えて、

心筋梗塞閉塞性動脈硬化症脳梗塞も糖尿病においては極めて起こりやすいので、

それらの病気に由来する症状を起こすことがあります。


次回は、今回の続きで、合併症の詳細について解説していきます。



2013年10月3日木曜日

糖尿病の分類⑥(妊娠糖尿病)

今回は前回の続きで、1型、2型糖尿病以外の糖尿病ということで、

妊娠糖尿病についてお話していきたいと思います。 


妊娠糖尿病は、妊娠中のみ血糖値が異常となる症状を言います。 

2型糖尿病とは異なる病気であることに注意を要します。

(必ずしも「生活習慣の悪い妊婦」がなるわけではありません。)

原因としては、妊娠中に増加するホルモンである

hPLやエストロゲン、プロゲステロンなどが

インスリン抵抗性を悪化させることに因ります。 

一般には、出産後に改善します。 


一方、元々糖尿病患者が妊娠した場合は、

糖尿病合併妊娠と呼ばれます。 

とは言え、元々糖尿病であったかどうかを

完全に確認できているわけではなく、

妊娠糖尿病で発症し、

分娩後もそのまま糖尿病が治らないこともままあるようです。


基本的に食事療法が行われますが、

改善しない場合、後述の胎児へのリスクもあり、

また飲み薬は催奇形性の懸念があるため、

インスリン注射療法を行うことになります。

胎児への影響があるため、通常時より厳格な管理を必要とし、

六分食やインスリン持続皮下注などを行うこともあります。

妊娠糖尿病では先天異常のリスクが高まるが、

妊娠初期から正常血糖を保っていれば、通常の妊娠と同等です。 


早産も多く、羊水過多、妊娠高血圧症候群の頻度も高い

ハイリスク妊娠のひとつです。

妊娠糖尿病では巨大児になりやすいため、

難産になりやすいようです。 

また、妊娠糖尿病では中枢神経系よりも身体の発育が良いので、

出産のときに頭が通っても肩が通らない肩甲難産になりやすく、

そのため、分娩が長引く場合は帝王切開が良いとされています。


6回に分けて各糖尿病についてお話してきましたが、如何でしたか?

糖尿病と言っても、こんなに種類があるんですね。


次回は、糖尿病の症状や合併症について解説していきたいと思います。